第1章

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 教室の戸をあけるとそこには後藤先生の顔があった。鬼教師の後藤。その仇名のとおり、憤怒の形相をした後藤先生の顔。それが僕の目の中にとびこんできた。    ゴツン 「今が何時何分か言ってみろ」  痛みがしてから声が聞こえた。ピカッと光ってから音が聞こえる雷を思い出す。 「8時45分です」  頭を押さえながら僕は答えた。 「朝の会は何時からだ」 「8時20分です」    ゴツン  またもやゲンコツが飛んできた。こぶしを振り上げたのも見えなかった。手をだすのが速すぎる。この暴力教師。 「すわれ」  後藤はそれだけ言って、教壇のほうに戻っていった。たんこぶができたらどうするんだよ。ていうか、すでに頭が膨らんでる気がする。鬼だ。  5年ときからの担任の後藤は、白髪だらけのジジイ先生だ。ジジイならジジイらしくヨボヨボしてればいいのに、僕たちを凄い勢いで小突き回す。この1年半ほど、僕らはいったい何発のゲンコツを喰らってきたことだろう。  そりゃね、僕ももういい歳だから、ちょっとぶたれたくらいじゃ体罰だの何だのって騒がないよ? ガキじゃないんだし。でも、コイツ、本気で殴るんだもん。痛いんだもん。コブになるんだもん。はっきりいってやりすぎだ。コイツとあと半年も一緒に学校生活を過ごすなんて……五体満足で卒業できるような気がしない。 「……いまにみてろよ」  おっとっと、口にでちゃった……    ゴツン  反射的に頭を押える。けど、ゲンコツされたのは僕じゃなかった。  「いってぇ……」  すぐ後ろから声が聞こえた。ゲンコツくらったのは、後ろの席のマッサンだったようだ。なんで殴られたのかわからないけど、どうせ理不尽な理由なんだろうなぁ。  僕はこっそり振り向いて、同情のめくばせを送っておいた。マッサンはそれに恨めしげな目線で答えた。なんだよ、マッサンが殴られたのは僕のせいじゃないよ。
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