第1章

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音楽なんてガラじゃないけど、お昼休みは音楽準備室に集合する。それが僕らのルールだ。この部屋、鍵がかかってるんだけど、ベランダと音楽室を経由すれば裏口から入れたりするんだよね。3階のはずれにあることもあって、人もあんまり来ないし、隠れてコソコソ話をするにはもってこいなのだ。 「今日のはマジで痛かったハンパなかった」  マッサンが頭をさすりながら言った。いや、もうさすがに痛みはひいてると思うけど。 「だいたいお前のせいだよ。また遅刻とかしてきやがって。俺までついでに殴られたじゃねぇか」 「いやいやいや、僕の遅刻は関係ないだろ」 「あるよ。そうじゃなきゃ、なんで殴られたかわかんねぇもん」 「どうせまたエロいラクガキでもしてたんだろ」 「してねぇよ、なあ」  横でおろおろしていたルーキーに、マッサンが話を振る。 「あ、うん。エロいラクガキは、してなかったよ、ね」  ルーキーが自信なさげな顔で言った。そんなふうに頼りなさげだから、いつまでたってもルーキーって言われるんだよ。転入してきてもう3年だぞ。 「だろ。まったく意味分からん。マジで、やめさせたほうがいいよアイツ」 「……そろそろ、計画実行の時かな」  僕たちは、かねてより、『後藤追放計画』を立てていた。鬼退治にあやかって『桃太郎プロジェクト』という暗号で呼んでいる。  計画の概要は単純な話。アイツの暴力沙汰を、ありのままにちょっとおおげさに、クラスメイトの親に伝え、不信感を覚えた親たちといっしょに校長に直訴。数の暴力で後藤追放へ押し切るという流れだ。子どもだけだったら、流されて終わるかもしれないから、大人を巻き込んで流れをつくるんだ。  でも、この計画のためには、クラスの中に僕たちの賛同者を作らないといけない。クラスメイトを抱き込んで、その親を抱きこんで……。結構めんどうな、時間のかかる計画なのだ。開始するなら、早いほうがいい。 「そうだな!」 「でも……」  決心を決めたかのようなマッサンのセリフを、ルーキーの気弱な声がさえぎった。 「学校から追い出すなんて、あんまりじゃないかな……」
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