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「教室がおかしくなったのがいつ頃からなのか、君は覚えているかい?」
学校の中庭にはノゾミ先輩がいた。彼はいつも一人で台の上に座っている。両手を広げて空を仰ぎ、演劇部みたいな口調で喋る変わった先輩。この学校で唯一人間の形をしている先輩。
「わからないです。先週くらいから?気がついたら、クラスメイトはみんな化物になっていて、壁に口や目が生えて…。先生も、黒いモノリスみたいな生き物にとって代わってるんです。」
「壁に口や目は生えないよ。」
「わかってますよ。でも現に、生えてるんです。超常現象ですよ。」
ノゾミ先輩は私の悩みを聞いてくれる唯一の存在だ。だって他の生徒はみんなのっぺらぼうで会話ができないんだから。クマ以外。
「一週間前に、学校がおかしくなるきっかけがあったんだろうね。」
ふむ、と先輩は台の上で考え込むポーズをとった。つやつやした黒髪が太陽の光を反射している。
「ほかに妙なことは…たしか、呪いをかけられるんだったかな?」
「そうです。前も言いましたよね。私は呪いをかけられてるんです。」
そういって、私は足を撫でた。今こうしている分には痛みも違和感も何もない。一般的で健康的なただの足だ。でも教室に入ると皆がこの足に呪いをかけてくる。
「心当たりは?」
「呪いをかけられることについてですか?まあ、自分でも知らない間に人を傷つけてることはあると思います。でも、クラスメイト全員に呪われるようなことなんてした覚えはないです。」
「足に何か思い入れはないの?」
足に?足に関する思い出?私はひざを撫でながら考えをめぐらす、と不意に強い頭痛が私を襲った。
「痛ッ」
「大丈夫?」
「だ、大丈夫です。なんだろ…急に頭が痛く…。」
「…きっと、この学校がおかしくなってしまったのはそこに理由があると思うよ。」
「私の足に、理由がある…?」
先輩は自信満々に言うけれど、本当に何も思い出せない。頭が痛む。眉間にしわを寄せている私を見下ろして、先輩は自分の真下を指した。
「お昼ごはんはまだなんだろう?僕はもう先に食べてしまったから、よかったら座って、食べながら話を聞くよ。」
そう言って先輩はまた空に向かって手を開き決めポーズを取った。光合成のポーズ。ちょっとおかしくて笑ってしまうと、頭痛は治ったかな?と先輩は微笑んだ。
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