第1章

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 次の日、教室の戸を開けたら、そこにはやっぱり集団ののっぺらぼうが座っていた。けれど壁中の眼球は私ではない方角をじいっと睨んでいた。私ではない方角。私の隣の席。ピンクのクマをじろじろと見つめていた。 「おはよ、クマ。」 「おはよう…。」  クマは元気なく微笑んだ。机の上に置かれた手は、一本しかなかった。 「どうしたの!」  壁の口が急に大声をあげた。 「手が」「手が」「手が」 「どうしたの?」「可哀想」「可哀想」「可哀想」 「もうダメだね」「ダメだね」「ダメ」  わあわあと壁中から呪いの大合唱がクマに浴びせられる。クマは震えながら机をじっと睨んでいた。  教室の戸を開けて黒いモノリスが耳障りな泣き声を放つ。 「可哀想ですね可哀想ですね」  クマは机を睨んで動かない。ぷるぷると小刻みに震えているようだった。 「行こう。」  私はクマの残っているピンクの手を掴んだ。ふわりとした手触りは、毛の感触ではないような気がした。  席を立って、モノリスを押しのけて教室から飛び出す。 「どこに行くのお。」 「その手…。」  うっかりと、私もクマに呪いの言葉を吐きかけて、ぐっと飲み込んだ。私にはクマの気持ちがわかる。呪われることの辛さがよくわかる。 「中庭。あんな教室いたくないでしょう。」 「あのねえ、君の気持ちが、今日初めてわかった気がするんだあ。」  クマはのんびりと言葉をつむぐ。握り返してきた手は暖かくて、まるで人間の手のようだった。 「先輩!」 「あれ、今日は友達を連れてきたの?」  先輩は相変わらず台の上に乗って、空へ手を広げていた。 「これがクマです。」 「クマ、それは誰なの?」 「私の親友ですよ!」
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