4人が本棚に入れています
本棚に追加
***
佐倉が怪我をしたのは陸上部で練習していた時だった。ハードルに思いっきり足をぶつけてしまい、部活は休部。松葉杖をついて登校しなければいけなくなった。
クラスメイトは面白がって佐倉を質問攻めにした。中には本当に心配していた子もいたかもしれない。口ぐちにその足のけがを聞いた。毎日毎日足について質問をした。それを嫌がって、佐倉はクラスメイトを無視するようになった。無視されてからはしつこく尋ねることはなくなったけれど、そのかわり彼らは見つめるようになった。佐倉の足をじろじろみて、教室に入ったらヒソヒソ仲間とウワサしあった。
教室中の壁に目と口が見える、と佐倉に一度相談されたことがあった。ノイローゼだよ、と励ましたけれど、佐倉の態度は日に日に悪くなっていった。毎日一緒に昼ごはんを食べていたのに、中庭へ一人食べに行くようになってしまった。
不思議なことに、佐倉は松葉杖をついて歩いている自覚がないようで、まるで自分の足のけがを忘れてしまったかのようにふるまっていた。階段を下りるのも大変なのに、どうして大変なのか本当にわからないようだった。
佐倉のノイローゼを、私はどうすることもできずに遠巻きから見ていた。いまいち共感できなかったのかもしれない。運動神経の悪い私は、もとから走るのが得意じゃないから、走れなくなった佐倉のストレスを想像することができなかった。
だから、バチが当たったのかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!