シンカー(錘)

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教室の戸を開けたら、そこには男の子がいた。 いや、はっきりと断言はできない。 多分そうだろうという程度だ。 何故ならその子の顔は ピンぼけ写真のようにぼやけていたからだ。 背丈と髪の長さから そうだろうと見当するしかなかった。 その子は、夕暮れの灯りのない教室で 窓を背にして立っていた。 何故その子がそこにいるのか 皆目見当がつかない。 「いい?」 不意にその子は僕に話しかけてきた。 その声もまた ピンぼけ写真のように ハッキリと聞き取ることはできなかった。 僕はとっさのことで驚き その子をみるだけで精一杯だった。 「いいの?」 また声がした。 何がいいの? その子に問いかけようとして、ふと止めた。 僕には既に答えが解っていたからだ。 もう、その頃には日も落ち、辺り一面が暗くなっていた。 僅かに机と子供が見えるぐらいだった。 いつのまにか机の数だけの 顔のぼやけた子供たちがいた。 その子たちは 僕に手をふったかと思うと 褐色に輝く蝶となり、机とともに 漆黒の中に消えていった。 微かに残ったリンプンと 私が いつまでも、その中にあった。
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