第1章

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『幼い日々』 幼い私が本棚に挟まっていた 幼い私はうずくまりカメになっていた 薄汚れた小さなカメだった 本棚には沢山絵本があった 手に取れば色とりどりの夢物語 けれど私は小さなカメだったから 仕方なく泥くさい水を飲んでは出して飲んでは出して 首を伸ばして題名だけ読んでいる あの本は誰かの物語 幸せだった人の うまくいった人の 悲しみに明け暮れた人の 憎しみにとらわれた人の 虐げられた人の 戦った人の 戦えなかった人の 心を捧げた物語 私の物語は怒りから始まったけれど 積み上げられた怒りは ここで禁書となり 長い封印に眠る いつか開く時には 塵になって崩れ去るといい 誰かがドアを開く 私は首を伸ばす その差し伸べられた手は 泥を落とすための 石鹸の匂いがした
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