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教室の戸を開けると、そこには一人の少女が居た。今は放課後、僕と彼女以外には誰も居ない。
「もー、待ちくたびれちゃったよー」
そうやって笑う彼女は、そのまま僕に近づいてくる。笑みを浮かべた口元からは、うっすらと牙が見えている。
「じゃ、いっただきまーす!」
目の前に来た彼女、早乙女 魔鬼(さおとめ まき)は、嬉しそうに僕の首筋に噛みつく。チクっとする痛み、ほのかに香る女の子のいい匂いくらくらするのは血を抜かれているから、だけだろうか。
「んっ…」
そう、彼女はサキュバス…いわゆる吸血鬼というやつだ。
あの日、いきなり血を分けてくださいと言われた時には心底驚いた。どうやら僕からは美味しそうな血の匂いがしたらしく、正体を明かしたらしい。
それ以来、彼女とはこうやって、放課後に血を分けている。休日には血を分けることを口実に会うことが出来る。
こんな状況なのに二人きりという事実にドキドキしている僕はおかしいのかもしれない。
「ぷはっ、ごちそうさまー!」
血を飲み終えた後の彼女の笑顔は何とも可愛くて、血を抜かれた直後の貧血気味も吹っ飛んでしまいそうだった。
それにしても、今日はいつもより長かった気がするのは気のせいだろうか。
「やっぱりキミの血は美味しいね!でも…それも今日で…」
「ん?」
後半、聞き取れなかった。聞き返すが、彼女は笑顔で何でもないと返すばかり。
その笑顔がどこか寂しそうに見えたのも、気のせいだろうか。
「じゃ、帰るね。…バイバイ」
「?うん、また明日」
そう言って彼女は、教室を出ていく。たまには一緒に帰らないか…その言葉は出てこなかった。
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