第1章

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「……魔法、今日で二つも覚えなくちゃいけないの。どうすればいいと思う?」  お姉ちゃんは少しの間考えると、真面目な口調で語る。 「あんた今浮遊魔法しか使えないんだよね。だったら同じ系統をひたすら修行すればいいんでない」  私の家の系統は水の属性を持つ魔法を得意としているけれど、なぜか私が初めに覚えたのは浮遊魔法なので、私はお姉ちゃんの言う通り自分が覚えられるであろう浮遊魔法を片っ端から試していくつもりだった。 「私は自分を浮遊させることは出来るのに、物を浮遊させることが出来ないの。でも、浮遊の対象を自分から物に変えればいいだけだから、まずはその辺りから試していくつもり」 「それって同じ魔法だとカウントされるんじゃない?」 「……まぁ、見方によっては、そうだよね」  私は落胆する。  確かに対象を自分から物に変えているだけで、魔法自体は同じだとは思う。着眼点は良かったけれど、それを違う魔法かと問われれば、肯定は難しい。 「浮遊より、それに近い移動魔法か、それか転移魔法かな」 「転移魔法なんて、そんなの無理だよ」  私は魔法力の絶対量なら一級クラスだけど、魔動力は平均的。浮遊は魔法力があれば発動できるけれど、転移は魔動力に自信がないと扱えない魔法だ。 「大丈夫だよ。転移魔法なんて浮遊魔法に毛が生えたくらい単純な魔法なんだから」 「それはお姉ちゃんが尋常じゃない量の魔動力を保持してるから言えるんじゃない。私なんて魔動力二百ちょっとしかないんだよ。簡単に扱えるわけないじゃない」 「それは一キロ先の重機を一瞬で転移させるって言ったら難しいけど、そこからここまでの短い距離なら簡単だよ。それにいざとなったら魔動力は魔法力で補えるじゃない」 「そうだけど、でも……」  私が転移魔法を覚えるのに躊躇していると、お姉ちゃんは仕方ないと でも言うようにため息をついてから、笑顔で私を見やる。 「大丈夫。完璧に扱えるようになるまで、私がしっかり指導してあげるから」  私にとって、それは悪魔の笑みだった。 「さて、特訓するよ」 「さて、我が妹よ。早速魔法の練習をしましょう」  私とお姉ちゃんは運動着に着替えて、家の裏にあるお庭に出ていた。 「でも転移魔法なんて本当に簡単に出来るの?」  私はまだ疑っていた。
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