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「あんたは難しく考えすぎなんだと思うよ。原理を理解して魔法が発動するイメージを自分の中ではっきり持っておくことが重要なんだ。あんたはそれ以外により綺麗にとかより早くとか、より正確にとか考えてるから魔法公式が重くなっちゃって、結局オーバーヒートして発動しなくなるんだよ」
「そんなこと言われても」
「最初は簡潔に適当にでいいの。それ以外は出来るようになってから考えなさい」
「うん」
私は立ち上がり、何度目か分からない魔法発動の言葉を呟く。
「Invocation・Magic・Transfer」
初めて使う魔法は発動公式を言わないといけないのって、どうにかならないかな。これって結構恥ずかしいんだよね。
いけないいけない。集中しなきゃ。
意識を手に集中させ、お姉ちゃんが持っている私の今日の朝ごはん
を自分の手に転移させる。
とにかく今は転移させるだけ。形とかどうでもいい。とりあえず転移させる。
手の平が次第に暖かくなってきて私を中心に風が起こる。
「よしよし。いい感じだよ」
お姉ちゃんの声が遠くに聞こえる。
手の平には少しずつ何かが集まる感覚がある。私は意識を一層集中させる。
大丈夫、私は出来る。
そして視界が一瞬光に包まれ、やがてその光は一点に集約する。
しばらく沈黙の時間が続いたけれど、お姉ちゃんがその沈黙を破る。
「……えっと、うん。そうだね。成功だね」
お姉ちゃんはなんだか歯切れの悪い言い方をする。なんだかこういうお姉ちゃんは珍しい。お姉ちゃんはいつでも自信に満ちていて、何をしてもかっこいいのに今はなんだかそういう面影がない。
「まぁ、なんだ。これからもっと精度を上げればいいのさ。今は転移魔法が成功したことを喜ぼう」
私はおそるおそる自分の手を見る。
「え……」
私は言葉を失う。
確かにお姉ちゃんの手の中にはおいしそうな朝ごはんがあったのに、今私の手の中にあるのは気味の悪いスライムだった。
どろどろと指の間から地面に落ちるそれは鳥肌ものの気持ち悪さだった。
「うわー! なにこれ! 私変化魔法なんて使ってないのに! なんでこんな風になるのさー!」
私は飛び跳ねるようにして手に付いたスライムを払う。
「ごめんごめん。転移魔法の練習には、生物とか食べ物は避けるようにと言われてたっけ」
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