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「立岡くん。私はね、告発をしたいわけでも、これをしかるべきところへ届けたいわけでもないの。わかるでしょう?」
僕の意識の問題なのか、実際に日が沈んでいるのか、教室のなかで暗闇が勢力を広げる。
彼我の距離は一気に詰められる程度だ。強引に紙袋を奪い取れれば――いや、ダメだ。そもそも先輩が、紙袋の中身を確認していないとどうして言い切れる。
「それを返してもらえませんか」
僕が選択したのは、藁をもつかむ思いの懇願だった。
先輩はこみ上げるものを隠しもせずに、蠱惑的な笑みを浮かべた。
「それはできない相談だわ。あなたもよぉく知ってるでしょう。私が人の困った顔を見るのが大好きなことを」
言うが早いか、先輩は紙袋を引き裂き、秘匿物を露わにした。
「うふふふふふ! 『寝取られ妻 あけみ29歳~旦那の前で乱れる新婚妻~』とはいい趣味をしているわね!あなたの墓石に刻む言葉は決まったわ! それにこの血痕、鼻血? あなたの鼻血なのね! この文芸部の恥さらし、下賎畜生ウジ虫! うふふふふふふふ!」
「らめぇぇぇぇえぇぇぇぇ!!!!」
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