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「春になったらお前の弟が転校してくるって言ってなかったっけ?」
「来るよ。今、ちょっと準備が間に合ってなくて。でも、再来週には登校できると思う」
恐らく、それくらいだろう。
今はまだ自分のように人間に化ける事のできない弟だが、こうして毎日人間を食っているのだ。それも、自分が化けようとしている奴らと同年代というのはそれなりに意味がある。
「今、もう一緒に住んでるの?」
「一応ね」
「お前も大変だな」
クラスメイトがなんとも言い難い顔をしていた。
もう長らく人間に化けて人間社会の中で暮らしているが、いまだにこういった微妙な感性という物を理解するのは難しい。
「・・・何で?」
「何でって。だって、同じ歳の義理の弟なんだろ?しかも、初対面とか。いろいろ気まずくないか?」
「いや、別に?普通に仲いいと思うけど」
チカチカと視界の端にそれがみえた。
教室、もとい弟の胃の中にいる全ての人間から小さな光る砂粒のような物が一粒零れ落ちて空中を漂い、それから弟の胃壁に張り付くようにしてその中へととけ込んで行った。
どうやらようやく食い終わったらしい。
英語の教科書を閉じて、代わりに鞄の中から取り出したキャンディの缶を開けた。中には特に何も入っていない。
(ほら、)
呼ぶと、弟は渋々と言った様子でその中に収まった。
人間界で言う所の質量保存の法則など、自分達には適用されていない。
「外国育ちだし、ちょっと世間知らずだけどね。頭はいいし、運動もそこそこできるよ。人見知りだけど、一度慣れたらべったり懐いてくるから最近可愛くて。まぁ、仲良くしてやってよ」
からり、と。
空っぽのはずの缶から弟の鳴く音がした。
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