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「なんか初めて呼ばれた気がする。ヤマンバとかバケモノとかおまえとしか呼ばれてないよ、あたし」
そうかもしれない。
確実にそんな気がする。
じゃなくて。
嫌だから本名を名乗るってなれよっ。
俺はアカネの名前も年齢も知らない。
会ったこともない婚約者よりも、こんなに一緒にいるのに。
「要が婚約者浮かべて呼ぶなら、要に名前呼ばれても気がつかないかも。あたしのこと、ヤマンバでいいよ?どうせヤマンバだし」
「それはそのメイクをしなければいいだけだろ」
「じゃあ、バケモノで」
どこまでも俺に本名を名乗るつもりがないようだ。
名前知ってるくらいでなにかができるわけでもないのに。
「アカネ。昼飯、なに食べたい?明日、買い物いって帰るから」
俺は悔しくもなって、わざと呼んでやる。
「要の食パン、なくなりそうだから買ってきて。あと、食洗機の洗剤。塩も少ないから買い置きしていいかも」
「おまえは食パンと洗剤と塩を食うのかよ」
「だってあたしのご飯なんて気にしなくていいよ。働いてもいないし、一日一食で大丈夫。その一食も要が一緒に食べていいって言うから食べさせてもらってるし」
「俺、おまえに金もやってないんだけど」
「いらない。宿と一食もらって、あたしが体で払ってる」
遠慮というもののような、違うような。
適当に買ってきて置いていても食べそうにないことはわかる。
飼育と言ったり、なんだかんだで俺がいい思いをさせてもらってばかりのような気がしている。
1週間という区切りをつけたとしても、そのときにはその後、少しでも飯を食えるように金を渡したほうがいいような気がする。
「明日、買い物っていう散歩にいくか。食べたいもの選べよ?」
「要、なんでそんなに親切にしてくれるの?」
親切にしているつもりはない。
どっちかといえば、俺の罪を目の前に見て、それをチャラにしようと繕っているだけ。
傷つけてごめん。
やりすぎた。
妊娠ももししたら傷つけることになるだけ。
ごめん。
そんなの言っても、アカネはきっと言う。
気にしてないよ。
……アカネを落としたい。
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