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親の知るところにもなってしまうが、俺から茜への直接の連絡手段もないため、親に茜と二人で会ってみたいと告げると、親がそのデートの段取りをしてくれた。
吸収合併ではないが、合併したいのは親もというところか。
ライバルとなる企業を傘下に入れて、市場独占くらいになりたいのか。
快く受けてくれた。
まだ大学も休み。
小平の家まで茜を拾いに車を出す。
茜に聞きたいことは山ほどありすぎる。
小平の家は住宅地にあった。
俺の実家とあまり変わらない大きな一軒家。
ただし純和風で、門構えも生垣もしっかりした豪邸。
着物姿のいかにもなお嬢様が住んでいそうだ。
生垣に寄せて車を停めて、車から降りると門を潜って玄関先までいって、その呼び鈴を鳴らした。
出てきたのはお手伝いさんと思わしき女性。
自分の名前と用件を伝えると、茜を呼びにいってくれた。
外は寒いからと玄関の引き戸を閉めて待たせてもらう。
立派な玄関だ。
奥が見えないようにしている衝立も年が明けて間もないからか、めでたそうな松と鶴の絵。
どこかの料亭のようにも思う広いポーチの脇には下駄箱。
下駄箱の上には花が活けられている。
しばらく待つと、茜がきた。
墨を流したような真っ黒な髪をおろしている。
その顔は目がくりっとした綺麗なお嬢様メイク。
服もギャルでもなく、冬用の厚い生地の淡い色合いのワンピース。
手にはコートと鞄を持っている。
デートの装いといったところか。
どこからどう見ても清楚なお嬢様。
初対面でこれなら、俺はなにを思っただろう?
あの出会い系の募集文でこんなのがきていたら、それはそれで二度見したかもしれない。
見た目で判断はできたものじゃない。
「おはよー。要、くるの早くない?もうちょっとゆっくりでいいのに」
話しながら靴を取り出しているそれはあのアカネとしか思えないが。
「化けすぎだろ」
俺はその屈んだ頭を見下ろして言ってやる。
「お嬢様らしいもの着ろってうるさいんだもん。人の着るものにもいちいち口出してくるわ、家に軟禁しやがるわ、こんなとこ大嫌い」
茜は靴を履きながら、家の奥にいるであろう親に聞こえるように話す。
その顔をあげて俺を見上げてくると、どうにも違和感。
上品そうなのに、口悪い。
詐欺だと俺が言ってやりたくなる。
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