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平凡な毎日の中でいつもと違うことをするのがいい。 アカネとかいう女が素直に怒って不機嫌になってくれたおかげで、今はかなり気分がいい。 待ち合わせ場所に到着して、煙草に火をつけて時計を見る。 外はもう暗い。 通勤帰りのサラリーマンやOLが横断歩道を渡っていく。 相手の容姿を聞いていない。 何を待てばいいのかもよくわからない。 相手に車は教えてある。 本当にきたらどうするのかもわからない。 まぁ、3万渡してやればいいかなとも思う。 俺がここにいるのはセックス目当てでもない。 2本目の煙草に火をつけて吸っていると、俺の携帯に電話がかかってきた。 アカネだ。 「はい」 『はろはろー?要、着いてる?』 「着いてる」 答えながら、軽く車の外を見てみる。 本当にきたらどうしようとちょっと焦ってきた。 こいつのこのノリは何か襲われそうにも思う。 肉食系女子な雰囲気。 いや、ヤってもいいんだけど。 襲われたくはないようにも思う。 釣りだったのほうがうれしい。 『あたしも着いた。どれー?……って、もしかしてあれ?』 本当にきそうな言葉に、更に車の外を見ようと歩道のほうを見た。 携帯を耳に当てている女というものを目で探した。 探すまでもなく、髪傷んでるだろというような金髪の女が、携帯を耳に当ててこっちに近づいてくる。 その服の派手さはギャルというのか。 高いヒールのブーツ、日焼けした肌。 短いショートパンツは夏が過ぎた今はもう寒く感じる。 ジャケットは分厚いが、それはまだ暑そうだ。 というか、その顔は不細工というものでもない。 飴を舐めているのか、口から棒を出している。 女はこの車の助手席の窓から中を覗くように見てきて、俺は助手席の窓を開けてやる。 日焼けした肌に目元だけ塗りたくって仮面みたいな顔をした女が俺を見る。 「……間違えました」 女の声は電話越しと目の前から聞こえてくる。 「間違ってないし」 俺も確認できるように電話越しにも聞こえるように言ってやる。 背を向けた女は俺を振り返る。 「……」 「……」 しばらくお互いに無言だった。 相手がこんなのとは思ってなかった。 これはヤマンバってやつじゃないか? 絶滅したものだと思っていたのに、まだこんな奴が残っていたとは。
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