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グリムの問いかけに涼也がすかさず言葉を返すと、緑髪の少年は笑みを浮かべる。そして、何も言わずに立ち止まった。
自分の背中を見送る男の実力は、涼也も知っていた。
(ウィンガード家……一族で同じ魔法を継承している上に、多数の戦闘実績を残している有名な家系。その長男とぶつかれば……クラス内の奴らに本気でやる姿を見られるじゃねえか)
和領国は忍ぶ国。涼也もまた、その血液を色濃く継いでいる。全力で戦うことを強いられる相手とは、絶対にやりたくない。グリムもまた、涼也がいつも本気を出していないことに気付いての誘いだったのだろう。
恐らく、涼也以外にも強力な魔法などを隠している者は多いだろう。魔導士の資格試験は成績上位二十名までという決まりがある。入学してすぐに自らの手を晒し、対策でも立てられようものなら、まず上位に食い込むことはできない。
(まぁ、手の内を隠しつつそこそこの成績を残さないといけないから難しいんだよなあ)
大切なのは、調整力。現在、最速で魔導士の資格を取得しようとしている層は、そう考えているだろう。
この学校で強くなろうとか、卒業までに資格を取ろうだとか、そういうことしか頭にない人間はどんどん置いてかれる。
「待ってろよ……」
校舎を出て、屋根のついた一本道を歩く。外気には触れているため雨の匂いを吸い込んだ。赤い瞳には室内演習場が映る。中には既に多くのクラスメイトが揃っていた。
少年は、その中で自分が一番強いと、そう思っている。
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