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(いくら実力を隠したかったとしても、現状じゃクラス最下位の成績……いい加減、本気だしてくれないとこっちも少しイラッとくるんだよなぁ……)
イラッとくるのは彼女のことを多少なりとも気にかけているからだ。このままだと進級すら怪しい。彼女の弱さは予想以上に涼也にとっての悩みの種であった。
「ごめんね、練習相手にもならなくて」
「……いや、俺はいいんだけどさ。お前、大丈夫なのかよ」
申し訳なさそうにレナンが言うと、涼也の苛立ちは薄まり、危惧の念がより強まった。
「純正魔法を思い出せさえすればなあ」
「二年前に頭打って思い出せなくなったんだっけか? アホだろ」
「うう……」
正直、そんな話を涼也は信じていなかった。脳内でも強い記憶や印象こそが魔法となるのだ。他のことを忘れずに、それだけ忘れるなどおかしい。大事な記憶ほど脆いものなのかもしれないが、やはりまだ出会って一か月程度の関係で全ての話を信じられるほど涼也は浅はかではない。
(信じてやりたいけど……悪いな。疑い深いのも生まれた国のせいかもしれない)
心の中で謝罪する。入学してから、いつだって傍にいてくれた友人を信じきれない自分が心底いやだった。
なんだかんだでその日の授業は全て終わり、いつも一緒に帰宅する悪友もいないので、レナンと二人で帰路についていた。
茜色に染まった空の下、朝も通った道のりをなぞる。
「まだ走ってるね、あれきっと武装部隊だよね」
「ああ、そうだな」
「……」
自己嫌悪にはまってしまった涼也は、どうにも暗いテンションをぬぐいきれずにいた。それを感じ取ったレナンもまた、口を閉じた。
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