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軍兵たちが野外演習場で走りながらあげる掛け声だけが、二人の耳を通っては抜けていく。
やがて、涼也とレナンの住む学園寮に着き、そのまま解散となるかと思われたのだが、
「ねえ、涼也」
レナンは涼也の住む部屋の扉前で、声をかけた。ドアノブに手をかけていたところで涼也は静止し、振り返る。同時に両肩に手を掛けられ、そのまま押し付けられた。
「おい……なんだ?」
扉に背中を預けながらも、レナンの突然の行動に動じて、体が動かなかった。少女に殺意が少しでも混じっていれば、涼也は正気になれただろう。しかし、そういったものは感じられなかった。
ちょうど、今の空色みたく赤く染まった顔。震える唇がゆっくりと動く。
「キスしよ」
言葉と同時にお互いの距離がなくなった。金色の髪が揺れて、甘い香りが涼也の鼻孔を刺激する。そして、互いの唇が重なった。……と思われたが、間一髪のところで涼也は手を挟み込んでいた。結果的に手の甲にキスされた訳だが、それにしても突然すぎてパニック状態に陥ったのは間違いない。
「な、なななな!」
「な、しか言えてないよ」
奇襲に失敗しつつも、レナンは冷静なようで、慌てる涼也に微笑みかけた。
「なんか、元気なかったから。つい」
「つい……って! アホか!」
なんだかんだで、暗い雰囲気は崩れていた。そして、その有り様に気付いた涼也は、ため息をこぼした。いつも通り、気さくに振る舞うレナンのお蔭で、ようやく冷静になれたようだ。
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