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「んで、実は昨日みたんだけどさ」
「なにを?」
クロは得意のしたり顔で涼也の赤い瞳を覗き込む。その黒い瞳は平均よりやや細く、鋭いものだ。真面目な表情をすれば怖がられそうだが、基本的ににやけている為、そういうイメージは全く持たれていない。
「なんだよ、いつもよりニヤニヤしてて気持ち悪いぞ」
「いやあ、どっちかなあ。本当に気持ち悪いのは、レナっちにキスされて興奮しすぎて早起きしちゃう健全な涼也君かなあ? それともその事実に口の端が吊り上がっちゃって緩まない俺の方かなあ?」
直後、涼也の右ストレートがクロの顔面に迫る。
「おっと!」
首をひねり、紙一重で回避に成功したクロはそのまま数歩、後退した。簡単にかわされた拳を開き、涼也はベッドから起き上がった。木製の床が重みで軋む。
「学校休んでると思ったら他人の寮を監視か? とりあえず後頭部を差し出せ、記憶喪失にしてやる」
「まあまあ、落ち着きなって。誰かに言いふらすつもりもないし、監視した訳でもないって。たまたま近くを歩いてたら見かけちゃっただけなんだって」
この男は、信用できない。する必要もない。涼也は入学するまで知らなかったが、この地域の中学では有名な詐欺ペテン野郎との噂だ。レナンと違って意味もなく嘘をつくタイプ。
涼也が忍ぶこと、疑うことを得意とするならば、クロという男は息のように虚言を吐くことが得意なのだろう。
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