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目を開けると水気を含んだように黒ずんだ、木製の天井が見えた。次いで、その中央でぐるぐると不愛想に回り続ける羽根つきの灯り。
視線を横へそらせば、朝日を中継する窓ガラスが見える。段々と様々な情報が脳内を駆け巡る。
「夢か……」
随分と古い記憶が引っ張り出されてきたものだと、少年は自嘲しながら堅いベッドから身を起こす。
狭い部屋の中、洗面所へと向かい、コップに突っ込まれた歯ブラシを口にくわえてから、木の匂いに鼻をひくつかせていた。
「やっぱり、まだ慣れないな」
少年は目の前の大きな鏡を覗く。栗色の髪は今日も外にハネているし、赤い瞳もいつも通り気だるそうだ。
彼の名は泉条涼也せんじょうすずや。この、狭い部屋に住み始めてから一か月が経った。
歯を磨き終えると、乱雑に顔を洗い、濡れた顔もそのままに黒い制服を羽織った。ワイシャツを着たまま寝るスタイルは朝の準備時間を短縮するのだ。
さていくか、と部屋の扉を開ける。
「おっはよー!」
「おう、おはよ」
部屋を出て早々に、何者からか挨拶が飛んできた。かなりの声量で鼓膜に大ダメージを負いそうなものだが、突発的なその声より先に耳を塞いでいる辺り、毎朝のことなのだろう。
涼也を待ち伏せていた者の名はレナン=スティグナー。周りからはレナと呼ばれている女子だ。長い金髪に青い双眸、気さくな性格で男女から共に人気を誇っている。
「またワイシャツ着たまま寝てたでしょ? しわしわじゃん!」
「睡眠時間を三十秒ほど引き延ばす為の些細な犠牲だ。やむを得ないだろ」
呆れるような話だが、生憎レナンはバカである。
「うぅん、これは意見が割れそう。三十秒じゃなくて一分だったら私もシャツ着て寝るんだけどなー」
「一分てお前、それは幾らなんでも話しが良すぎるだろ」
などとくだらない会話の中、不意に発砲音が鳴り響いた。一つでなく、三発、四発と、朝からけたたましい音が耳に触る。
だが、これは事件などではなく、日常であった。
「やってるねー。発砲訓練」
「ああ、俺らも早く魔導軍に入らねえとな」
道の途中、備えられた運動場で、銃を構えている集団が見える。見渡せば、そこら中に区切られた運動場が存在する。
運動場と言うよりは訓練場であり、涼也たちはとある学園で、とある軍への入隊を目標としているのであった。
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