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「転校生との交流は後にしろ。次の報告だ」
アリスに何か話題を振ろうと必死な、彼女の席付近の男子生徒たちに向けて言い放ち、黒板を一度叩く。
軽く叩いたつもりだったが軽くヒビが入っていた。
「魔導軍隊は本部と十一の支部で構成されている。知らない奴はいないだろうが、ここは誇り高き軍の本部だ」
東西南北の各大陸に二か所ずつ、その他の島国に四か所の計十二か所。中でも涼也たちのいる東の大陸。その王国内に配置された本部は、戦力、領土共に最大である。
「然し、君たちの入学を境に始まった事件がある。それは軍本部内で相次いでいる行方不明事件。学園領域内でも相次いでいる。消えた者は新入生から軍の部隊長クラスまで様々だ」
「魔族の仕業では? 奴らは遊び感覚で人を殺しますよ」
リヴォルタの話をさえぎるように、堂々と意見を交わす生徒がいた。まれに、彼女に臆することのない生徒がいる。
「グリム=ウィンガード。私の話を聞いていなかったようだな」
意見を述べた生徒の名はグリム。緑髪という珍しい髪色は、ウィンガード家という貴族の象徴である。
「行方不明と言った。殺すだけなら知性の低い魔族でも可能だが、今回の事件はそういったものではない」
「……戦闘の痕跡は?」
グリムもまた自分なりの推測を始めようと、情報の先を求めるが、
「痕跡はない。そもそも何処で消えたかもわからない。だが私が言いたいのは、余計な推測なんかせずに帰宅時は気を付けろということだ。わかったか、グリム=ウィンガード」
「……まぁ、考えておきますよ」
「それで巧言のつもりか。まあ、勝手に踏み込んで勝手に消えようが、私の知ったことではないがな」
あくまで肯定はせずに、グリムはそれから口を挟むのをやめた。リヴォルタも必要以上に生徒を気に掛けるつもりはないのか、そのまま行方不明事件についての伝達を終えた。
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