上位争奪試験編

5/18
前へ
/21ページ
次へ
「転校生との交流は後にしろ。次の報告だ」 アリスに何か話題を振ろうと必死な、彼女の席付近の男子生徒たちに向けて言い放ち、黒板を一度叩く。  軽く叩いたつもりだったが軽くヒビが入っていた。 「魔導軍隊は本部と十一の支部で構成されている。知らない奴はいないだろうが、ここは誇り高き軍の本部だ」  東西南北の各大陸に二か所ずつ、その他の島国に四か所の計十二か所。中でも涼也たちのいる東の大陸。その王国内に配置された本部は、戦力、領土共に最大である。 「然し、君たちの入学を境に始まった事件がある。それは軍本部内で相次いでいる行方不明事件。学園領域内でも相次いでいる。消えた者は新入生から軍の部隊長クラスまで様々だ」 「魔族の仕業では? 奴らは遊び感覚で人を殺しますよ」  リヴォルタの話をさえぎるように、堂々と意見を交わす生徒がいた。まれに、彼女に臆することのない生徒がいる。 「グリム=ウィンガード。私の話を聞いていなかったようだな」  意見を述べた生徒の名はグリム。緑髪という珍しい髪色は、ウィンガード家という貴族の象徴である。 「行方不明と言った。殺すだけなら知性の低い魔族でも可能だが、今回の事件はそういったものではない」 「……戦闘の痕跡は?」  グリムもまた自分なりの推測を始めようと、情報の先を求めるが、 「痕跡はない。そもそも何処で消えたかもわからない。だが私が言いたいのは、余計な推測なんかせずに帰宅時は気を付けろということだ。わかったか、グリム=ウィンガード」 「……まぁ、考えておきますよ」 「それで巧言のつもりか。まあ、勝手に踏み込んで勝手に消えようが、私の知ったことではないがな」  あくまで肯定はせずに、グリムはそれから口を挟むのをやめた。リヴォルタも必要以上に生徒を気に掛けるつもりはないのか、そのまま行方不明事件についての伝達を終えた。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加