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リヴォルタが教室を去った後、入れ替わりで教師が一人入ってきた。黒ぶちの眼鏡を掛けた真面目そうな初老の男だ。どうにも、甘すぎる性格故かあらゆる生徒からなめられているらしい。
今日もいつも通りに談笑を始める生徒が多数いた。それでも初老の教師は落ち着いた物腰で授業を進めていった。
「あの教師、怖いよなあ」
ぽつりと涼也が呟いた。
「え? 一番怖くないじゃん。怒ったところなんか見たことないしさ」
隣の席に座るレナンが首をかしげながら言葉を返す。涼也はひとつため息をはいてから、教師に目をやった。
「今、教卓の上のノートに何か書いただろ? 多分、騒がしい生徒とか不真面目な奴らがどんどん減点されてるんだ」
「う、嘘……!?」
「静かにしろ。あの教師、顔の感じからして出身国は俺と同じだと思う。だからわかるんだ。ああいう、いやらしいやり方」
涼也は人差し指を唇に当て、レナンを落ち着かせる。騒がしい教室なので小声で喋る二人は教師から注目されることはなく、さらに涼也の唇をあまり動かさないで喋る技巧的な何かもまた一役かっているのかもしれない。
「涼也の出身国って和領国だったよね? いやらしいやり方って?」
「うちの国は忍ぶことを基本とした暗い感じの文化が主体でな。戦闘でもなんでも、あらゆるものを隠す。だからあの教師は感情を隠してる。でも減点はしっかりやってるんだろうよ」
気づけない生徒はどんどん減点され、一学期の成績に絶望するだろう。そういう意味で涼也は怖いと言ったのだ。
「そっかあ、そういう意味じゃ素直に大声で叱りつけてぶん殴ってくるリヴォルタ教官の方が……いや、やっぱあの人の方が怖い」
「ああ、それは同意だ。あのひと怖すぎ」
恐怖の象徴である教官様を思い、二人して肩を震わせる。それをちらりと見た教師がノートに何かを書き足していた姿を見て、しまったと、涼也はうなだれた。
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