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序章
大陸暦一五〇二年。この年、人類の歴史に大きな変化をもたらす二つの出来事があった。ゆえに、後世の歴史家たちはその年を、人類史における大転換点と呼ぶ。
一つ目の出来事は銃の発明である。銃とは火薬を用いて鉛の弾を鉄の筒から発射する装置のことであり、新生ガリア帝国によって開発され、デボーラの戦いにて史上初めて投入された。
デボーラの戦いとは、新生ガリア帝国とガルシア大帝国による国境線をめぐる争いである。その年の三月下旬、突如として発生した巨大地震によって地すべりが生じ、両国の国境を流れていたデボーラ川がその流れを変えたことに端を発する。
デボーラ川には国境線という役割のほか、その地域の生活用水、農業用水の水源域でもある。川の流れが自国へ傾いたのを良いことに元の国境線を主張するガルシア側と、川の流れに沿った国境線を主張するガリア側とで意見が食い違い、四月中旬、両国は軍隊を派遣して戦端を開くにいたった。
ガルシア大帝国は大陸の四分の一を占める超大国であり、五〇〇万人を越す軍隊を保有する軍事大国であった。しかも過去三〇年間はいくさで負けたことがない。一方、新生ガリア帝国は、大国ではあるものの、国土も保有する軍隊の数もガルシアには遠く及ばない。そのため、万人の見るところガルシア側の勝利は揺ぎないものと思われた。
しかし、結果は万人の予想を裏切るものとなった。デボーラの戦いにてガリア軍は、新兵器を大量に用意していた。新兵器の名は〈銃〉という。その銃の影響力が、戦いの勝敗を左右する結果をもたらしたのである。
銃の正式名称はフリンクロット(火打ち石)式銃という。銃は単発発射型であり、一発撃てば弾を込めるのに時間がかかるという難点を抱えていたが、ガリア軍は三段連射方式を採用することによってその問題を解決した。三段連射方式とは、銃を撃つ者と、銃を掃除する者と、銃に弾を込める者が三位一体となって望む戦闘方式である。これにより、ガリア軍はほぼ間隔をあけることなく銃を撃ち続けることができ、強大なガルシア軍を撃破することに成功したのであった。
デボーラの戦いで敗北したガルシア大帝国は、建国以来、初めて領土を失うという不名誉な事態に直面し、以後、ガリア帝国に敵意を剥き出しにし、両国はしばしば戦端を交えることとなる。
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