第1章 新大陸へ向けて

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「はぁ。まったく、情けないわね。いつまでこんな所で落ち込んでいるつもりなの? いい加減、そろそろ立ち直りなさい」  先ほどとは打って変わった優しい口調でエミリアはキールに声をかけた。  しかし、キールはテーブルに視線を落としたままであった。 「・・・・・・ほっといてくれ。おれは自分の短気と浅慮にほとほと嫌気が差しているんだ」  情けない声で呟く。いまの彼の姿からは、昔日の面影は微塵も感じられない。  キールの全身からはここにいる他の客と同様に腐った臭いが漂ってくるが、それは身体が発しているのではなく心が腐敗しているからだとエミリアは思った。  エミリアはもう一度、ため息を吐いた。 「短気と浅慮ねぇ。アレはあなたのせいじゃないと、わたしは思うけどなぁ」  エミリアは思い起こした。幼なじみがこのような現状に至った原因となる出来事を。  キールは本名をキール・デュナミスという。その名が示すとおり、あの偉大なるクオレ・デュナミスの血を引く男だ。  彼は長身で、鋼のような身体を有しており、精悍な顔つきをしている。エミリアの父親で、クオレの親友であるアラン・カストロによると、キールは若い頃の父親にそっくりだという。ただし、異なる点がふたつあり、髪と肌の色が父親とは違う。キールの髪は美しい銀色をしており、肌の色は陽で焼けたような褐色をしている。これは彼の母親の面影であり、インティ人の特徴でもある。キールはガリア人とインティ人の混血児であった。  キールは新大陸で生まれた。彼の母親はインティ王国の女王であった。生け贄の儀式を巡る内乱と、それに続く魔物復活という未曾有の危機をクオレに救われて、父と母は親密な仲となり、結ばれた。キールは生まれて五年ほどを新大陸で過ごしていたが、母親の病死をきっかけにガリアへとやってきた。エミリアと知り合ったのもその頃であった。
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