第1章 新大陸へ向けて

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 エミリアの父親であるアラン・カストロはクオレの大親友であり、黄金境探索ではクオレを最後まで補佐し、莫大な富を得た。帰国後、アランはインティ王国との友好条約締結などを成功させ、ガリアとインティの交友関係発展に力を尽くしたが、その後は政治の世界から離脱し、黄金境探索で得た富を元手に事業をはじめた。金山や銀山への投資、ヌメーレ湿原の開拓、新大陸との貿易事業などを手広く展開した結果、彼はわずか一〇年たらずで国内有数の大貴族に成り上がったのである。カストロ家はいまや帝国三大貴族の一角に数えられるほどであった。  そのカストロ家に、キールはよく預けられていた。クオレの公務が多忙であったため、家を留守にする機会が多くあったからだ。ゆえに、同じ年頃のエミリアとはよく泥だらけになるまで遊んだものだ。 「おおきくなったら、キールはあたしとけっこんするのよ。わかった?」  まだ七つにもならぬエミリアにそう言われ、頷いた記憶がキールにはある。エミリアと過ごした幼少期は、キールにとってはかけがえのない日々であった。  そしてキール一三歳の春、彼はガリア軍へ入隊した。誰かに強要されてのことではなく、父親の背を見ながら育ったがゆえの自発的な行動だった。  軍に入隊するや、キールはたちまち才能を発揮し、短期間のうちに昇進を果たした。その武勇は同輩にも先達にも並ぶ者がいないと称されるほどであり、事実、彼に実力で勝る者は父親のクオレ・デュナミスだけであった。  キールはその後、一五歳の若さでガリア騎士団に入団し、一七歳にして千人長に抜擢。そして一八歳の冬、一二人いる千人長全員の推挙により、ガリア騎士団の団長を務めるにいたったのである。彼の人生はここまで、非の打ち所がないほど順調であった。  それが暗転したのは、一ヶ月前に勃発した第三次ガルシア戦役の時である。二度に渡る敗北を重ねたガルシア軍が、その雪辱を果たすべく、三度ガリア帝国へ攻撃を仕掛けてきたのだ。
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