第1章 新大陸へ向けて

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 ガリア帝国ではすぐに軍が召集され、迎え撃つこととなった。迎撃部隊はガリア騎士団を含む総兵力一二万の大軍であり、これはガルシア侵攻軍一〇万より二割も多い。しかも指揮官は元帥クオレ・デュナミスであった。  ところが、出撃直前になってクオレが指揮官の座を追われた。宰相フェルデンが横槍を入れ、半日に渡って皇帝を説得し、自分の息子であるシャイロを指揮官の座につけたのだ。フェルデンがそのような行動をとった背景には、一説によると、日頃から不仲だったクオレに対する嫌がらせの意味が込められていたといわれている。大貴族であるフェルデンは貧民出身のクオレをよく思っておらず、これ以上の功績をクオレに立てさせたくなかったのだ。 クオレは皇帝に抗議した。 「シャイロ卿は有能な若者だが、戦場での経験が圧倒的に不足しています。しかも相手はあのガルシア大帝国です。荷が重すぎます」  と。しかし、またもフェルデンの横槍が入り、結局は人事の撤回はならなかった。フェルデンは皇帝や他の重臣たちの前でいかに息子が優秀であるかを大声で説いてまわり、賛同を得ることに成功したのだった。  フェルデンの息子、シャイロは二五歳の若者だ。帝国大学を首席で卒業したのち、二年間を外交官として過ごし、二三歳の時に軍に入隊し、それと同時に将軍の地位についた。性格は傲慢で、高圧的で、部下に対する思いやりがないと良く言われているが、クオレも認めたように頭はよく、机上の模擬戦では常に優秀な成績を収めてきた。実戦の経験はこれまで皆無であったが、これでもし、彼がガルシア軍に勝つことができたなら、シャイロの声価は一夜にして帝国全土に轟くことになったであろう。  クオレが苦々しく見送るなか、シャイロ率いるガリア軍は帝都を出立した。そして一週間の行軍を経て、カプリント平原に布陣し、ガルシア軍の出現を待った。この平原はかつて、デボーラの戦いでガリア軍が大勝した場所である。
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