第1章 新大陸へ向けて

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 ガルシア軍を迎え撃つにあたり、シャイロは兵のほとんどを歩兵で揃えた。大量の銃を用意し、大砲を揃え、圧倒的な火力でもって敵軍を撃破しようとしたのだ。 ガルシア軍はいまだ銃の開発に成功しておらず、遠距離攻撃はもっぱら弓矢によるものが主であった。飛び道具としての性能であれば、弓矢は銃に劣る。ゆえに、シャイロは開戦の前日、幕僚たちを集めた会議の席にて、ガルシア軍の時代遅れを嘲笑った。 「かつては世界最強と呼ばれたガルシア軍も、もはや我が国の敵ではない。時代遅れの烏合の衆にすぎん。諸君、明日は我が軍の強さを見せつけてやり、ガリアの地を汚した報いを受けてもらおうではないか」  幕僚たちの多くはシャイロに同調したが、キールだけは別であった。彼はシャイロがいうように、ガルシア軍が烏合の衆とはとても思えなかったからだ。 「ガルシア軍は精鋭の集まりだ。しかも指揮官はみな経験が豊富であり、有能な者が多い。そんな者たちが、果たして銃への対策をなにも講じていないのだろうか」  否としか思えなかった。これまでの二度に渡る敗北から、銃の威力をガルシア軍も承知しているはずだ。にも関わらず、再三に渡ってガリアへ攻めてきた背景には、銃への対策が完了しているからではないだろうか。  キールは自らが抱いた不安が杞憂とは思えず、シャイロへ進言しようとした。だが、それが不発に終わったのは、その直前にシャイロから嫌味を言われたためである。 「ああ、そうだ。デュナミス卿、おまえは今回なにもしなくていいぞ。指を加えて味方の活躍を見ていればいい。おまえたちガリア騎士団も、ガルシア軍と同じで時代遅れだからな。だから私は、おまえたちを、はっきり言って戦力として期待していない」  父親のフェルデンと同様に、シャイロもまたデュナミス父子をよく思っていなかったのである。蔑むようなシャイロの瞳は、悪意に満ちていた。 ニヤニヤと笑いながら言われ、さすがのキールも頭にきた。自分の騎士団を嘲弄されて面白いはずがない。激発こそしなかったものの、キールは進言をおこなう気が失せてしまい、無言でその場を後にした。このことを、彼は後日、後悔することとなる。
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