第1章 新大陸へ向けて

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 ガルシア軍は今回の戦いに備え、考察を踏まえたうえで作製した分厚い重装甲甲冑を大量に用意していた。その重装甲甲冑は鉛の弾はもちろんのこと、大砲の弾ですら防ぐ。それらを身にまとうは帝国軍五〇〇万から選りすぐられた巨漢の軍人たちであり、背負うは水牛のような巨躯を有するガルシア北部産の猛馬たちだ。ガルシア大帝国の底力は、ガリア帝国の想像が及ばぬ遥か上の領域に位置していたのである。  衰えることなく迫り来るガルシアの大軍に、シャイロは本能的に恐怖を覚えた。ガリア軍はなおも攻撃を続けているが、ガルシア軍はまるで怯んでいない。そして、シャイロの顔面が青色の果実と化した瞬間、巨大な悲鳴が生じた。 「うわああああああああああああッ!」  ガリア軍の戦列がガルシア軍によって粉砕されたのだ。逃げ惑うガリア兵が馬蹄で踏み潰され、槍で背から胸へと貫かれ、剣で頭を叩き割られて、一方的に虐殺されていく。まさに阿鼻叫喚の地獄絵図。悲鳴をあげながら逃げ惑い、助けを求めながら殺されていく味方を目にしながら、シャイロはまるで対応できなかった。  だがこの時、ガリア全軍が総崩れになるなか、ガルシア軍に真っ向から挑む一団がいた。後方に控えていたガリア騎士団である。味方の混乱を救うため、キールが独断で攻撃命令を下したのだ。 「全隊進め! ガルシア軍を押し戻せ!」  キールが先頭に立ち、ガリア騎士団が応戦に入る。剣が閃き、槍が光り、人馬が激突し、血生臭い戦いが生じた。ガリア騎士団は圧倒的な敵軍を相手に、互角以上の戦いを演じた。なかでも特に凄まじい奮戦ぶりを発揮したのがキールであった。彼は手綱を口にくわえると、右手に槍を持ち、左手で剣を構えて、ガルシア兵を次々と血祭りに挙げていった。重装甲といっても関節部分は装甲が薄い。そこに必殺の一撃を叩き込み、彼は多くのガルシア兵をあの世へと追放した。そしてガリア騎士団は、一度は完全にガルシア軍の進撃を止めることに成功したのである。  キールとしてはこの間に味方に態勢を建て直してもらい、戦いを援護して欲しかったのだが、彼の期待とは裏腹に、シャイロはとんでもない行動を取った。  戦場に角笛の音が響いた。それはガリア軍の退却の合図であった。
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