第1章 新大陸へ向けて

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 なんと、決死の覚悟で戦うガリア騎士団を生け贄に捧げ、本隊は退却をはじめたのだ。いや、退却などという上品なものではない。逃げ出したのだ。味方を見捨て、我が身の保身に走ったのである。 「なっ・・・・・・!」  キールは絶句した。シャイロがとった行動によってなにが生じるか、わからぬほど彼は馬鹿ではない。  もはや振り返ることなく全速力で戦場から逃げ出すガリア軍をガルシア軍は追わなかった。彼らは標的をガリア騎士団のみに定め、包囲し、全戦力でもって圧殺しにかかってきたのである。  多勢に無勢であり、しかも四方を包囲されての状況。戦闘は圧倒的に不利であった。ガルシア軍の攻撃が加えられるつど、ガリア騎士団は戦力を削られていき、その数を確実に減らしていった。  このままでは全滅を免れぬ・・・・・・! そう判断したキールは、地の果てまで轟くような大声で叫んだ。 「包囲網を突破し、戦場を離脱する! 我に続け!」  キールを先頭に、ガリア騎士団は一点への攻撃に集中した。キールは右へ左へ敵兵を斬り散らし、あるいは馬上から叩き落して、必死になって突破口を切り開いた。敵の返り血と、自らが流す血で全身を真っ赤に染めながら、キールは進んだ。その後ろを、決死の団員たちが後に続くが、彼らは進むごとに数を減らしていった。そしてようやく包囲網を突破し、敵の追撃を振り切って戦場を離脱することに成功した時、ガリア騎士団に昔日の面影はなかったのである。  ガリア騎士団の損害は巨大だった。一二名いる千人長のうち、実に八名が戦死し、一万二〇〇〇名の団員のうち、約八五〇〇人が命を失っていた。残った者もほぼ全員が負傷しており、無傷の者は一人もいない。ガリア騎士団創設以来、最大最悪の損失だった。  キールは騎士団の現状を確認し、ほんの一瞬だけ天を仰ぐと、味方と合流するため行軍を開始した。敵軍に見つからぬよう山中を慎重に行動し、そして深夜になって、ようやく自陣へとたどり着いたのであった。
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