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キールは陣へ到着するや、その足で総帥たるシャイロの天幕へと向かった。見張りの兵にシャイロがすでに休んでいることを聞かされて、彼は天幕を引き破いた。
驚いたシャイロが寝巻き姿のまま寝台から飛び起きた。彼はキールの行動を咎めようと口を開きかけたが、全身血まみれで鬼のような形相をしたキールを目にした瞬間、口が凍りついてしまった。
キールはシャイロに近づくと、その胸ぐらを掴んだ。
「なぜ我々を見捨てて逃げた。なぜ態勢を建て直し、戦わなかった。答えろ!」
シャイロは口を二度、三度開閉した後、答えた。
「お、おまえに、答える筋合いはない・・・・・・」
「なに?」
「軍の指揮官は私だ。その私が下した命令に、貧民ごときが意を唱えるんじゃない! 卑しい土人の血が流れているおまえごときが、高貴な私に意見するな! 第一、私がおまえに出撃を命じたか? おまえが勝手に前に出たからそうなったんじゃないか! いや、そもそも、おまえたちガリア騎士団が前に出たからこそ戦線が崩壊したんじゃないか! 今回の敗北の責任は、すべておまえにある! おまえの責任だ! 帝都に戻ったら、絶対におまえの責任を追及してやるからな。覚悟しておけ!」
シャイロは唾を勢いよく飛ばしながら喚き散らした。ブチリと、キールの中で何かが切れる音がした。
もしあの時、ガリア騎士団が応戦していなければどうなっていたか。本隊はあのままガルシア軍に蹂躙され、取り返しのつかない大損害を負っていたに違いない。いや、それどころか、全滅の可能性もあったはずだ。にも関わらず、目の前にいる指揮官の肩書きを持つ男は、自らの失態を棚に上げ、責任の全てを自分に押しつけようとしている。キールの中から、音も立てず、静かに理性が消失していった。
キールが沈黙しているのをいいことに、シャイロはさらに彼を罵った。
「さぁ、わかったらさっさと出ていけ! そしてその汚い面を二度と私の前に見せるな!」
その瞬間だった。怒りに任せたキールの鉄拳が、シャイロの顔面に炸裂したのだ。グシャリという音がして、シャイロの身体が後方へと吹き飛んだ。骨が砕け、鼻が潰れ、折れた歯が宙に四散し、両の眼球が飛び出し、そして首がありえない方向に折れ曲がっていた。キールがハッと我に返ったとき、シャイロはすでに死んでいた。即死だった。
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