第1章 新大陸へ向けて

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「・・・・・・!」  キールは自分が起こした事の重大さにしばし絶句し、自失した。  キールはすぐさま捕らえられた。そして総司令官を殺した罪で、その身柄を帝都へと送られた。彼に殺されたシャイロの亡骸と一緒に。  息子の死に、宰相フェルデンは発狂したように怒り狂い、キールを即刻死刑にするよう皇帝に求めた。 「陛下! あの男、キール・デュナミスは大逆の罪人です! あろうことか、自らの失態を棚に上げ、逆上し、怒りに任せて軍の指揮官を殴り殺すなど前代未聞の出来事です! このような者を生かしておくことは人道と国法、そして軍の威厳に関わります! ゆえに、あの男を、即刻死刑にしてください!」  宰相の激語に耳を傾け、皇帝は静かに頷いた。 「なるほど、宰相の言い分よくわかった。シャイロも敵ではなく味方に殺されてさぞ無念だっただろう」 「では――」 「だがな、キールがなぜそのような行動を取ったかを検証せねば公平ではあるまい。ただ一方的に彼を悪とすることは、それこそ人道と国法、そして軍の威厳に関わる事柄ではあるまいか?」  実はフェルデンは知るよしもなかったが、今回の出兵にあたり、皇帝は自らが信頼を置く皇帝特務隊のひとりを目付け役としてシャイロの側近に加えていたのだ。シャイロはまだ若く、経験も浅い。ゆえに、彼の指揮官としての能力と資質を調べるための同行だった。  その特務隊員から、皇帝はすでに報告書を受け取っていた。報告書にはシャイロがとった失態の数々が書かれており、未だ戦っているガリア騎士団を見捨てて退却を決定したということも記載されていた。奮戦する味方を見捨て逃げ出す行為は、今後の軍のあり方と士気に関わる重大な問題である。軍をまとめ預かる指揮官としては、決してとってはならぬ行動であった。
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