第1章 新大陸へ向けて

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 キールの身柄が帝都に移されてから一〇日後、彼に対する処分が皇帝より直々に言い渡された。うなだれ、ひざまずき、憔悴しきっているキールに対し、皇帝は静かに罰を告げた。 「デュナミス卿への処分は今後二年間の減給と三ヶ月間の謹慎、そしてその間の団長資格停止である。以上だ」  フェルデスはその決定に大いに驚き、異議を唱えたが、認められなかった。  キールに下された処分は、犯した罪の重さからすれば極めて軽微である。死刑どころか投獄すらなく、身分の剥奪すらない。なぜ皇帝は甘い処分を告げたのか。それにはいくつか理由があって、第一に提出された報告書の存在ある。次いで生き残ったガリア騎士団団員が集めた減刑嘆願書が認められたこと。エミリアや父親のアラン、そしてデュナミス父子と交流がある貴族や将軍たちが共同で出した寛大な処置を求める要望書も有効と判断されたためだ。そしてなにより皇帝自身が、父親クオレの功績とキール自身の能力を考慮して、寛大な処分を決定したのである。どんなに罰を重くしても、死者は決して蘇らないのだから。  しかし、自分への罪状が言い渡されたその場にて、キールは皇帝に願い出た。騎士団長の地位返上と、騎士称号の返上と、その他の軍における全ての役職と身分の返上とを。  キールは自分の短気と浅慮に失望していた。もし開戦の前夜、自分の危惧を進言していたならば、いくさの結果は何か変わっていたかも知れない。そうなれば、団員たちを無為に死なせることもなかったはずだ。感情を抑え、怒りを制御していれば、シャイロ卿を殺すこともなかったはずだ。だが、自分にはそれができなかった。結果、多くの人に迷惑をかけてしまった。これはもはや、取り返しのつかないことである。  皇帝はしばらく考えた後、キールの申し出を受諾した。それが最良の選択であると考えた結果だった。  この決定を受け、父親であるクオレ・デュナミスは言った。 「人生に迷いと挫折はつきものだ。いまはそっとしておいてやろう。奴はまだ若い、雌伏の期間も必要だ」  それはくしくも皇帝と同じ考えであったという。
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