第1章 新大陸へ向けて

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 そのケロイト地区に明らかに貴人とわかる女性が単身で訪れたのは、むろん冷やかしや社会見学の一環のためではない。彼女が捜索しているある人物が、この地区のとある場所に頻繁に出没しているとの情報を入手したからである。  彼女の名はエミリア・カストロ。年齢は一七歳。処女雪のような白い肌、緑柱石のような大きな瞳、金色の長いが目を引く美しい娘だ。新興の大貴族カストロ家の令嬢であり、昨年末、皇帝特務隊の一員にも選ばれたいわばエリートの軍人である。シェスタ地区を歩けば、多くの者が彼女に低頭するであろう。  とはいえ、そんな肩書きや経歴など、ここケロイト地区ではなんの意味もなさない。むしろ、ここでは貴人の装いはかえって危険を招く。この時、エミリアは白色の生地に金色の刺繍が施された軍服を着用しており、明らかに上流階級出身者とわかる服装をしていた。そのため、荒々しく汚らしい格好をした男たちに取り囲まれたのは、いわば必然の出来事といえよう。 「よお姉ちゃん、どこへ行くんだい。ちょっと待ちなよ」  下品で下卑た薄笑いを浮かべた五人の男が、エミリアを取り囲んだ。彼らの下半身の一部が膨らんでいるのは、おそらく、下劣な行為を想像しているからであろう。  男たちの体格はみなエミリアの倍以上あり、身長も頭二個分ほど高い。しかも五対一だ。普通の女性であれば恐怖で身がすくんでしまうかもしれないが、エミリアは一向に動じなかった。  エミリアが瞳を鋭く細めた。
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