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「あんたたちに用はないわ。それよりも「夏のそよ風亭」という酒場を教えなさい。そうすればいくらかの謝礼をあげるわよ」
見上げているにも関わらず、半ば見下すような口調でエミリアは男たちに問うた。そして懐から取り出した金貨を数枚、地面に投げ捨てる。
この行為に侮辱を覚えた男たちが、たちまち感情を沸騰させ、激昂した。
「このアマ、ふざけやがって! 身のほどを思い知らせてやる!」
男たちは頭で考えるよりも感情と力に任せて行動を取るタイプだったようだ。彼らは咆哮を発しながらエミリアに襲い掛かった。十分に暴力を振るった後、服を剥ぎ、その白い肢体を存分に弄んでやろうと考えていた彼らだが、その目論見が砂漠の蜃気楼に等しい考えであったと悟るのはその直後だった。
襲いかかる男たちの身体に、エミリアの攻撃が炸裂した。振り下ろされた手刀が頚骨を叩き折り、放たれた拳が内臓を破裂させ、勢いある蹴りが股間を砕いた。最初の勢いはどこへやら、男たちは苦痛の叫び声をあげ転倒し、苦悶の表情を浮かべながら地面を転げまわり、泡を吹いて悶絶した。彼女が有する皇帝特務隊の肩書きは伊達ではないのである。
瞬く間に男たちを倒したエミリアは、その中でも比較的ダメージの少ない男の首をつかむと、もう一度、質問を繰り返した。
「教えてちょうだい。「夏のそよ風亭」はどこにあるの?」
男は恐怖に震えながら、息もたえだえに答えた。
「こ、この先を行ったところにあります・・・・・・」
「そう、ありがとう」
聞くだけ聞いて、エミリアは男をその場に捨てた。そしてまるで何事もなかったかのように歩みを進める。歩数にしておよそ三〇〇歩。その間に、もう一度、先ほどと同じ目に遭遇しながらも、彼女はようやく、目的としていた「夏のそよ風亭」に辿りついたのであった。
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