第1章

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 半分開いた扉から顔を出したのは、やけに背の低い長髪の美少女だった。  いや、超美少女だった。  こんな美少女はめったにお目にかかれない、というか、ボクが今まで遭遇したことが無い程の美少女だ(おおげさじゃないよ)。テレビの美少女タレントや美人女優にスポットライトが当たっているステージを直接ボクの目で見たら、こんな感じなのかもしれないが、今までそういう経験はない。全身から美少女オーラが立ちのぼっているような気がした。僕が知る常識ではありえないような美少女だ。ボクは思わず息をのんだ。  その美少女は無表情に、ボクと母の顔をゆっくりと眺めた。留守番の中学生かな?人のことは言えないけど、月曜日だというのに学校はどうしたんだろう。もし事務員だとしたらずいぶん若い事務員さんだが・・・。  「天狗様でいらっしゃいますか?ご連絡を差し上げました、八ツ峰竜樹の母でございます」  母はいささか興奮気味のようだった。しかし、ボクにとってそんなことはどうでもよかった。  まさか!この少女が霊能力を持つという天狗様? どう見ても十代以上には見えない。見た目だけで判断したら僕よりずっと年下に見える。母はきっと勘違いをしているのだろう。年末に神社でバイトしている巫女さんじゃあるまいし、こんな若い霊媒師なんてありえないだろう。  少女はハーフなのだろうか。瞳が大きく日本人離れをした、くっきりとしたお人形のような顔つきをしている。顔の色も、僕が今まで見たことがない白さだ。昔近所に碧い目で金髪の少女が住んでいたのだが、遠くで見ると人形のようでも、近くで見るとソバカスだらけでがっかりした記憶があるが、この少女の肌には染み一つない。でも、石像のように無表情だ。動かずに立っていたら、マネキンと間違えるかもしれない。  「聞いている。まずは事務所に入りなさい。本人だけでいい。親ごさんのいる場では、話しにくいこともあるだろう」  風貌とは似つかわしくない落ち着いた話し方で少女はそういうと、目は母を見たままでボクをドアの中に招いた。  そうか、バイトの超美少女でカウンターを食らわせておいて、こっちが動揺しているのを手掛かりに、御大の天狗様は事務所の中で手ぐすね引いてボクを待っているという訳か(そんなの御見通しだよっ)。  すかさず、母は高級洋菓子店で購入したリボンのついた過剰包装のお菓子を少女に手渡した。
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