第1章

11/126
前へ
/126ページ
次へ
 「つまらないものですか、お口に合うかどうか・・・」  つまらないものではない。母が買ってきたものは、普段家庭で食べるような洋菓子ではないのだ。なんでこんな高級なものを、この小娘に渡さなければならないのか。  少女は何のためらいもなく、洋菓子の箱を受け取った。そして、ゆっくりと視線をボクに移した(超美少女の視線を感じて、ボクは舞い上がりそうになった)。  「キミ、中に入りたまえ。八ツ峰さんは、どうぞご帰宅を」  天狗様・・・らしき少女は、無表情に言い放った。  母はボクの耳元に小声で「しっかりね」とささやいた。あーあ、まるっきりガキ扱いだ。それに、何をどうしっかりしろと言うのか意味不明だなと思いながらも、ボクはそっと頷いた(変に素直なのがボクの欠点だったりする)。母はやたらぺこぺこ頭を下げながら、階段に向かって歩いていった。  少女が開いた両開きの扉の向こうは衝立になっており、その向こうの部屋の中は二十畳くらいの広さだが、何よりひどく暗い。蛍光灯はおろか、電灯らしきものの一切なく、明かりは窓に閉められたブラインドからちょっぴり漏れている日光くらいで、目が慣れるまで闇に放り込まれた気分だった。古い内装だが、埃っぽい感じはしない。逆に、なんだかほんわりとコーヒーのいい香りが漂っている。 中には少女のほかに人の気配はない。と、いうことは、やはりこの少女がすごい霊媒師の『天狗様』なのだろうか。  学校の文科系の部室にでもありそうなパイプ椅子とたくさんの新聞が置かれた折り畳み式の机の向こう側には、かなり大きな社長室にあるような木製の立派な机があり、書物が乱雑に積み上げられている。古めかしい机の中央に三十インチはある大きなパソコンモニター(テレビではないだろう)の背中が見えるところが、ちょっと現代風だった。  部屋の右手に別に真新しい事務机があって、こちらには大きな三つのモニターが並んでいる(電源は切れているようだった)。キーボードは一つしかないから、この少女が三つのモニターを同時に使って作業するのだろうか。霊媒師だけでは食えないので、副業でコンピュータソフトでもつくっているのかな? だとしたらなんだか笑える話だ。もしかして、除霊用のソフトをつくってたりして(ぎゃっはっは)。
/126ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加