第1章

2/126
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/126ページ
          一  ボクの名は八ツ峰竜樹(珍しい苗字だろ? やつがみね たつきだよ)。高校一年生といえば聞こえはいいが、ボクは今、学校へ行っていない。いわゆる不登校というやつだ。ほとんど家にいて、だいたいは自室のパソコンと向き合っているから、引きこもりと言ってもいいかも知れない。  引きこもりであるはずのボクは、実は陽気で楽観的だ。もちろん、元々の性格が明るくて軽いのだが、学校へ行かなくなってから、ますます脳天気になってきたような気がする。  近所に住んでいる祖母(母方)によると、昔のミュージカル映画で『メリー・ウィドウ』というのがあって、それは『陽気な未亡人』という意味だとのこと。祖母(ボクは、ばーちゃんって呼んでる)に言わせるとボクは『陽気な不登校』らしい。なかなか洒落ているような感じがして、ボク自身その言い回しが気に入っている。  さて、『陽気な不登校』であるボクが、毎日パソコンやスマホに向かってネットゲームばかりしているのかというと、そうじゃない。ネットゲームをまったくしていない訳ではないが(あははっ、ボクって正直だろう)、ボクはアニメーションが好きで、見るだけではなく自分で絵を描いて動かすアニメーション創りが趣味だ。中学生の頃から時間があるとパソコンでアニメーションを描いていた。最初は一秒間に数枚しかなく、ちゃんと色もつけていないパラパラ漫画のようなアニメーションだったが、最近はそれなりにちゃんとしたものも作れるようになってきたんだぜ(えっへん)。 もっともボクが完成させたアニメーションにはまだストーリーはなく、自分のオリジナルのキャラクターが音楽にあわせて動くだけのもので、今まで作った一番長いアニメーションでも三分足らずだ。そして、今は技術的な面でも気持ちの面でも行き詰っているのが正直な気持ちだ。一番の行き詰まりは、完成したアニメーションを動画投稿サイトに投稿するかどうか迷っていることだ。赤の他人がボクの創った(作ったじゃないぜ、ゼロから創造したんだぜ)動画を、どう評価するのかを考えると、とても怖い。まあ、でも焦ったってしょうがない。不登校のおかげで、時間は象に食わせるほどあるんだから。
/126ページ

最初のコメントを投稿しよう!