第1章

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暇だからといって、アニメーション創りにも集中できないし、かといってネットゲームの世界に浸れば、自分が現実から逃げているという自己嫌悪にどこまでも堕ちていってしまい、それに慣れてしまいそうで怖い。ボクにはまだ、本物の引きこもりにはなりたくない気持ちも少しはある。だから、時々教科書や参考書を開いて、勉強の真似事をしたりもしているが、一人では思うように進まない。正直、何もかも行き詰っているのが、今のボクの状況だ。 もちろん、このままで良いとは思っていないが、もう一ヶ月学校を休んでみれば、何か良い方法が思いつくかもしれない。もちろん思いつかないかもしれないが、その時は、また一ヶ月休んでみようと思っている。時間が経てば、この状況もどうにかなるだろうと思っている。あはは、のんきなものだ。  ボクは不登校だけど、別に親に不平・不満があるわけじゃない。だから、朝食・夕食は家族と一緒に食べる。母と世間話もする。昼食も母が朝、用意してくれたものを食べる事がほとんどなので、食事に関しては普通の高校生と変わらない規則正しい生活をしている(この点では自分はなかなかエライと思ってる)。  朝食を食べていると、ボクは母の様子がなんだか普段と少し違うことに気がついた。父は今日も仕事の都合で早めに出たらしいが、母はそろそろ家を出る準備をしなければ遅刻する時間になっているはずなのに、何故だかキッチンを右に左にうろうろしている。そして、今日は寝坊しちまって遅めの朝食をとっているボクの向かいの席に、母はエプロンをはずして腰掛けて、無理に笑顔をつくって話し始めた。  「ねえ、タッ君」  お恥ずかしながら、ボクが高校生になっても母は、ボクのことをタッ君と呼んでいる。だいぶ以前の事だが、ある友人を家に呼んだ時に母が“あらタッ君、お友達?”なんて言ったおかげで、しばらくクラスでタッ君呼ばわりされて参った。母親って、息子の成長に鈍感なのかも知れないな。それとも、ボクは母から見ればまだまだ子どもなのだろうか。  「あのね、沼田さんのところの悠太君、知ってるでしょ。あの子もしばらく学校をお休みしてたの。でね」  母はまたどこからか、何か相談所みたいな施設の話を聞いてきたのだろうか。だが、今日の母の様子はこれまでと少し違っていた。
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