第1章

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 「高尾町にね、『天狗様』っていう、すごい霊媒師の先生がいるの。でね、悠太君、その霊媒師の先生とお話したら、学校に通うようになったっていうの」  天狗様?霊媒師?新興宗教?街の拝み屋さんか?  母の声はあきらかにいつもよりも高揚していた。母はボクのせいで、とうとうおかしくなってしまったのか?(おかあたまが壊れていくぅ)  「その『天狗様』ってすごい霊能力があって、何でも相談にのってくれるっていうのよ。どう?なんだか面白くない?」  おもしろくねーよ。  霊能力だあ?いつの時代の話だよ。ボクは母の笑顔をなるべく見ないようにして、箸でハムエッグをつつき、ちょっと考えるふりをした。どうせ考えるふりをしても無駄なことはわかっているんだけどね・・・。  「ねっ、タッ君。お願い。一回だけ、一回だけその『天狗様』に会ってお話してみて」  『天狗様』ねえ・・・。テーブルクロスの青いチェックの模様をなんとなく眺めながらボクは想像してみた。  きっと、総髪振り乱した感じの白髪のじいさんなんだろうな。あの天狗とか山伏が、よくかぶっている角ばった小さな帽子(あの帽子なんていう名前なのかな)を頭にのせていたりしてさ。高い一本歯の下駄に無理やり乗っかってよろよろしてたりして。最初から天狗のお面なんか、かぶってたりしたら笑っちまうかもしれない。おそらくボクを不登校にしたのは悪霊の仕業とか言い出して、ヤツデの葉っぱでも振りかざして、除霊でもするのかなあ。 でも白髪のじいさんに、「学校が嫌いだなどと甘えるなっ」とか、「アニメーションやネットなんて非現実な世界に逃げ込むなっ」とか怒鳴られたりしたら、すごく嫌だなあ。  ボクの反応をうかがうように、母はちらちらとこっちを見ながら続けた。  「すっごい評判なんだって。『天狗様』って霊能力で何でも解決する万能の超能力者みたいな人らしいのよ。霊能力以外にも、いろいろすごいことができるんだって」  うーん、どうしよう。ボクは心霊現象などまったく信じてはいないし、霊能力ってのが、かなり怪しげだけど、退屈しのぎくらいにはなるのかなあ。そういえば天狗って仏教系なのか神道系なのか、どっちなんだろう。聞かされるのが、お経なのか呪文なのか、ちょっと興味が湧いてきた。
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