第1章

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 母は昔から、自分にはちょっと霊感みたいなものがあって、人よりも勘が鋭いなんて思っているが、ボクのことに関しては、母の勘が当たったことなんかほとんどないのだ。息子のボクが言うのもなんだが、母の子どもに対する勘や読みは一般人よりもかなり外れていて、逆にえらくニブいと思う事のほうが多い。第六感だとか、霊能力だとかを全くバカにしているボクの勘の方が、たまに当ったりする。そして、母は思い込みも人一倍激しいのだ。  実はボクの両親は二人揃って弁護士だったりする。しかも母は、民事裁判ではかなり凄腕で父よりよっぽど忙しい人なのだが、家で話すことは結構トンチンカンだったりする。自分の母親をこんな風に言っていいのか迷うところだが、母はその間の抜けたところが結構可愛かったりするのだ(マザコンじゃないぞ!)。  おそらく沼田さん(母が顧問をしている建設会社の社長で、奥さんがマジでオーホッホッホと笑うというマンガみたいな人)のところで、相当言い含められてきたな。沼田さんの息子の不登校が治ったって?確か中学校一年生だったはずだ。あの無神経そうなガキが、ボク同様不登校だったとは意外だけど、学校に行くようになったのは『天狗様』とやらの霊能力とは関係ないと思うぞ。霊媒師の霊能力で不登校が治るのなら、文部科学省が、とっくに霊能力の研究をはじめているだろうさ。  ボクは箸でハムエッグをちぎるのをあきらめて、皿から茶碗のご飯の上にハムエッグをのっけた。いつも母がだらしないと嫌がるボク得意のハムエッグ丼だ。自分では僅かな抵抗のつもりだ。  母はそれに気づかず、居間に行ってハンドバックを取り上げた。そして、振り向いた顔はなんだかいつもより化粧の乗りがいいのかキラキラしていた。うわっ、これって新興宗教の信者の顔か?やっべえ。  「実はね、タッ君は絶対興味をもってくれるって思ってね。『天狗様』には、今日の午前中にうかがうからって、昨日予約のお電話したの」  うわっ、予約済みかよっ。謀られた!  「おかあさん、今日仕事お休みするから、あとで一緒に行きましょ。場所は高尾町だから歩いてもいけるけど、ごあいさつのお菓子を尾張町の洋菓子屋さんで予約してあるから、タクシーを呼ぶね」  ひえぃ! 状況の展開が早すぎるぅ。これは完全に母にハメられた。
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