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"それ"は突然の雨のように、思いもしないタイミングで私に降りかかった。
雨ならばよかった。天気予報を見て、傘を持つなり対策対応ができたから。
でも"それ"は熟練の予報士にも、銀座の占いのおばさんにも予想なんてできなかったろう。
そもそも占いなんて信じていないけど。
「これを、あなたにと」
初めて顔を合わせる弁護士と名乗る男は、銀色のアタッシュケースを畳の上に置き、差し出した。
姉が死んでから一ヶ月が経った頃だった。やけに仕事が早いなとか、今時現金で渡すの?とか頭の中を掠めたけど、流れ星より早く消え去った。
「お姉さまの遺言書の通りに、わたくしが代理人としてご用意致しました」
あの面倒臭がりの姉が遺言書なんて物を書き留めていたことに、驚く。
姉という人は、たった二人の姉妹である私を時に優しく、時にイタズラに、時に厳しくそして理不尽に。構ったり構わなかったり、ちょっかいをかけたり年上ぶったり、甘たれてみたり。
私よりも早く産まれただけの、普通の普通のお姉ちゃんだった。
ただ、かなり面倒臭がりで、散らかした物の片付けは私の役目。食事の用意や手伝いも私の役目。
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