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差し出された銀色のケースを、開けないという選択肢もあった。そのまま銀行に持っていけばいい。
真新しい仏壇に飾られた、姉の控えめな笑顔の下にしまっておくのも選択肢のひとつだろう。
でも、私は目の前で座布団に正座をし、私と私の物になろうとしているケースの中身を見つめている弁護士が見守る前で、ケースに触れた。
持ち手を掴み引き寄せ、ロックを外す。暗証番号とかダイヤルロックとか南京錠とかそんな鍵すらない、あの姉らしいケースだ。
カチンと音が鳴り、もう押し上げれば蓋が開くというその時、なぜ今時現金なのかがわかった。
あの面倒臭がりの姉だ。暗証番号を考えるのも面倒だったんだろう。ダイヤルロックなんか適当な数字すら思い浮かべるのも面倒だったんだろう。南京錠すら鍵穴に鍵をさすのが面倒だったんだろう。
実際に暗証番号の入力をしたり、数字を入れたり、鍵穴に鍵をさすのだって、姉ではなく受取人の私がすることなのに。
いつもそう。姉が面倒だと思うことはいつも私がやらなきゃならないこと。
なのに今は、この時は違うの?
こんなに簡単に、面倒もなく、開いてしまっていいの?
仏壇で姉が、笑う。
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