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私は弁護士に向かって手を伸ばした。
「残りの半分を」
弁護士は、私が何をしようとしているのか気付いただろう。わずかに躊躇ったのが表情に出た。
「姉が私に託したのなら、こうするのが姉の意志です」
「受取人のあなたがそうおっしゃるなら、わたくしは何も口出しは出来ません」
弁護士は半分の重さになったケースを私に渡した。相変わらず鍵類の一切ないケースを受け取り、蓋を開ける。
ひと束手に取る。初めて手にした百万円。思ったより軽い束に、見えない重みを感じる。そこから適当に数枚掴んで束から引き抜き、燃え上がる赤い炎にそっと近付けた。
あっという間に手元まで近寄る熱。指先で紙切れを弾き、全てが灰になるのを見届ける。
それを、繰り返した。
「弁護士さんもやってください」
「しかし……」
「私ひとりでやっていたら、終わる頃にはお芋が真っ黒焦げになりますよ」
札束を差し出す。
弁護士は躊躇いがちに受け取り、しばらく眺めていた。
「姉とこんな話をしました」
パチパチとはぜる枯れ枝の音。少しずつ、少しずつ灰となり、煙になっていく紙幣。
姉の、無茶苦茶な話。
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