2人が本棚に入れています
本棚に追加
あと五つ。ひとつ手に取り、あと四つ。
「これだけでも自由に使えばいいのに、なんて頭の中では声がします」
「何故、燃やすんです?」
弁護士の問いはもっともで、でも私の中でもこれは決定事項だった。
「お芋が、美味しくなるからです」
まったく間抜けな話だし、きっと誰も理解しない。たぶんこれはあの面倒臭がりの姉の戯言だったんだろう。
「このお芋は、近所のスーパーで一本150円でした。特に安売りでもなかったし、時期にも少し早いから、特別安い訳ではありません」
弁護士はお札を火にくべるのをやめていた。
「五本も買ってきちゃいましたよ」
私はやめない。最後のひと束を掴み、まとめて火の中に投げ入れた。灰になりきれなかった紙幣の欠片が、風に舞う。
「五本で750円のお芋が五千万の紙幣で焼かれるんです」
「燃えてしまいましたね」
いいんです。これが姉の意志。そして、私が決めていた使い方。
「とても"価値"のあるお芋を、大切な人と食べなさいと、姉が言ったんです」
でも、両親に感謝を忘れてはいけない。だから半分は両親へ。
私はひとりでも、生きていけるから。
最初のコメントを投稿しよう!