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弁護士は音もなく立ち上がった。
もうすぐそこに秋が来る、そんな雲の多い空にダークグレーのスーツがはっきりと切り取られる。
「お姉さまは……いや、あの人は不思議な人でした。死んだなんてとても思えない。でもこれが手元に現れたなら、変えようもない事実だ」
仕事モードを切ったのか、弁護士は自分に言い聞かせるように呟いた。
「燃えちゃいましたけどね」
私は笑いながら枝で火をかき回した。ごろんごろんとお芋が転がる。
「焼けたかなー」
「あなたはあの人にそっくりです」
「似てないって、よく言われましたよ」
お芋をくるむアルミと焦げた新聞紙を、軍手をはめた出で剥いていく。
「そっくりです……泣き顔なんて、本当に」
熱すぎるお芋を、半分にして片方を差し出した。
「お姉ちゃんは、それでいいって笑います」
「泣いてるあなたの頭を撫でながらでしょう?」
「頭を撫でてくれる姉は、もういません」
姉の信頼する弁護士の手は姉よりも逞しく、私の頭を優しく撫でた。
とても価値のある焼き芋をかじると、ケースの底に貼り付いた紙切れに気が付いた。
姉の面倒臭そうな殴り書き。
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