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夢、恐怖、希望、悪意、理想、絶望、想像、拒絶、創造・・・・・・。
真っ白な美しい世界と真っ黒な苦しみの世界が頭のなかでぐるぐる渦巻き、現実から引きずり込もうとする。隆史はうつ伏せ、スマホを投げ出し頭を抱えた。
――プルル プルルルルル
古典的な電子音に幻想から覚醒し、スマホへ手を伸ばす。電話には明希の名が表示されていた。
「も、もし、もし」
「オッス、高くん、元気なん」
明るい声にいま生きている現実を踏みしめ、目から水がこぼれ落ちる。それを悟られぬよう、彼女へ告げた。
「お、め、珍しいっすね」
「ん?何かあった?様子へんだけど。あ、隠し事。んなわけないね。あんた隠すの下手だし。あ、そうそう」
カナリアの歌声のように軽やかで可愛らしい声に聞き惚れながら、そして時おり相づちをうち、一時間ほどたった。
彼女が慌てたように電話を切る気配を察し、思わず止めた。
「な、なあ、お、俺にさ」
「ん?なに」
「あ、いや」
「言いなって」
彼女・明希の柔らかで優しい声に背中を押された。逡巡しながら口にする。
「えっと。俺にさ、金が。もしもっすよ?金が。でっかい金が入ったってったらどうするっすか」
「え?どうしよ?」
唸った彼女に慌てて付け加えた。言って墓穴を掘ったと青ざめながら。
「あ、いやっすね、きょ、今日、一億円くれる人いてっすね、もらってしまったんすよ。サイト見てたらっすよ、なんか怖くなってっす」
「バッカ」
頭を殴られるような言葉と裏腹に彼女は電話の先で大笑いをしていた。息もできぬほど笑いこげる彼女に、隆史は口をアワアワ開けたり閉めたりする。
「お腹ッ痛いなぁ、もう。そんなの夢、夢。夢幻に決まってんじゃん」
「え?でもっすよ」
「確かめよっか、あんたの家で」
「お願いするっす!!」
彼女の申し出に、隆史は相手に見えぬのを忘れて思いきりうなずいた。
「はぁ、どうするかね」
着いたとたんに安堵した隆史は、明希を抱き締めて離さなかった。やっと解放されて話を聞いて、ブツを見せられて。
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