第1章

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「ほんまもんとはね」 スーツケースの中身に頭を抱える。明希が来たことで安心したのか、高いびきをかいて寝る隆史を、明希は蹴り倒したい気分にもなっていた。 「あったらあったで、すぐ使い果たしそ。タカられて。だったらダメでも夢にしようか」  金と通帳を急いで部屋にあった黒いビニール袋に入れる。それを車に隠し、十万だけ机の上に置いておいた。 「隠し場所はゆっくり探すね。騙すようで悪いけど」  隆史が深く眠っている間にと、明希は住宅地の間の木々の繁る公園にいった。 「こんなことあったら、いつも私がやるんだよなぁ」  人目を気にしながら、スーツケースへ木の葉を詰め込んで、隆史のもとへ戻るとまだ寝ていた。  息を吐いて、薄暗い部屋に元の位置になるように置き直した。 「あると思うとダメなんだ。お金はないと困るけど」  呟きながら、柔らかな寝顔を撫でる。小さく唸る彼に明希は優しく微笑んだ。  朝になり、隆史は恐る恐るスーツケースに手を伸ばす。昨日まであった重みが消えたのに頭をかしげつつ、開けた。 「え」  木の葉が部屋の中を舞い落ちる。口をぽっかり開けた隆史の姿を、薄目で見ながら明希は密やかに笑った。 「狸っすかぁ」  穏やかな朝日は部屋を照らして、隆史は伸びをした。布団な擦れる音に振り向き、明希に苦笑いを向けた。 「なに笑ってんすか。あ、昨日の話は忘れてくれっす」 「昨日の話って?」 「もう。いいっすよ」  いつもの穏やかな会話。いつもの軽やかな笑い声。安堵の息は互いに秘密で吐いた。  雀の声は二人を囃し立てていた。
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