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全裸。なんて無防備なんだろう?犬や猫は毛皮を覆い身を守っている。虫なんかでも全身を毛で覆うなどしているのに、人間ときたら…。
性交を行う時、人間はだいたい全裸でするらしいが髪の毛や下の毛や産毛などがあるにしてもあまりにも無防備ではないか。だから人間は服を着ていてこそ人間である。夏目の漱石さんもそんな事を云っていた気がするし。
その時、人間は人間では無くなっているのかもしれない…。
そして今僕は人間ではない。性交している訳でも無いのに、全裸である。そして身動きが出来ない。紐か何かで縛られているのかもしれない。
それだけならいいのだが困った事に周囲に、正確には下半身の排泄する為に用意されている機能的な穴付近に、百足のような物体の集団を発見している。
それらは何故なのか…君達に問う。何故君達は僕の機能的な穴を目掛けて邁進しているのか。と。
気がついてからずっとそれらから逃げ続けているのだが、今や万事休す。僕とした事が角際に逃げてしまっていた。このまま奴等の目的を完遂させる訳にはいかない。説得を試みよう。
「君達、いったい何処に向かうというのだ?それはただの機能的な穴であり、君達が追い求める光ではないのだよ。いいね、分かったら何処かに行くがいい」
ふ。効果無し、か。彼等は邁進するのを止めない。いったいどういうつもりだ?あ、一匹入ってきた。…ううん…この狼藉ものめっ。うねうねするなっ!毒を散らすなっ!痛いなぁもう…。
痛みに耐えていると、残りの彼等が微かに話していた。
「やっぱり……そろそろかな…」
「……ね。…ないといけないかも」
「…も……あ…終わりなのかな」
「楽しい……終わりが……」
「どうせ…も……余興よ…」
断片にしか声が聴こえない…。なんだ?身体が痺れる…。眠い…。
「哀川くんっ!哀川くんっ!」
はっきりと聴こえた。亜美ちゃんの声。ドアを激しく叩いている。
…ああ、そうだ。僕は黒川泉からの暴力的な治療を受けて…。
見ると、制服を着た黒川泉が腕を組んで微笑んでいた。
「まったく…また栗原さんなの?わたし達の時間を邪魔するのは決まってあの女。…でも哀川くんの寝顔。とても素敵だったわ…。なんだか苦しいような顔をしていたけど、それも素敵よ」
黒川の顔が戻っている。何処からが妄想だったんだろう…。
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