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ていうか、詩乃の顔も知らない1年が何の用なの、みたいな?
それで詩乃に聞いてみたんだよね。
「ねえ、なんか時々知らない子が尋ねてくるっぽいんだけど、部活か何かやってるの?」
そしたら、詩乃はうつむいたまま、ちょっと自嘲気味に言った。
「うん、占いっていうか、そういうやつ」
昼休みだった。
梅雨前線が校舎を取り巻いていて、灰色の雲が厚く垂れ込めていた。
「そんな占いとかの部活って、この学校にあったんだ」
詩乃は俯いたまま首を小さく振った。
「じゃあ、サークルみたいな?」
うちの学校は割と自由な校風で、部活の参加も自由だったし、新しく同好会を作るのもけっこう簡単で、3人集めればとりあえず承認されるっていう感じ。
けどあまりに乱立してたから、それで部活動費が出るとかじゃなかったけど。
「サークルっていうわけでもないんだけど・・・」
じゃあなんなの?と思った。なので、そう言った。
「なんだろ?勝手に集まってきてる、みたいな?」
「何が?」
その時、わたしは確かに「何が?」と聞いた。
後で考えてみれば、どう考えても「誰が?」と尋ねるべきだったと思う。
でも、何故かその時は「何が?」と聞いたんだ。
深い意味で言ったわけじゃなかった。
「わからない。ただ何かいやな予感がするんだよ」
そういう答えが返ってきた。
後で考えてみると、それが詩乃と一緒に不思議で恐ろしい体験をすることになる最初の出来事だったと思う。
けどその時は意味がわからなくて。ただ不気味だった。
感覚的には10分くらい固まっていたような気がするけど、たぶん10秒くらいかもしれない。
気を取り直してわたしは最初の疑問を口にした。
「それで、さっきの子は何の用だったの?」
「悩み相談みたいな?」
「悩み?」
詩乃は、そこで初めて顔を上げてわたしの顔を見た。
「沙織。後にしよう。授業終わったら一緒に帰らない?話したいことがあるの」
その時、午後の授業の始まりを告げるチャイムが鳴り、わたしは不安を引きずりながら窓際の自分の席へと戻った。
窓から見えるグラウンドには雨が降り始めていた。
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