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一億円を手に入れて、僕は今日記憶を買いに行く。
無くしてしまった後悔を、取り戻すために。
「まず先に言っておきたいことがある」
繁華街の路地裏でひっそりとやっている喫茶店で、私はとある女性と会っていた。
彼女は僕のように記憶をなくした者から相応の金額を受け取り、記憶を戻してくれるらしい。
普通の人なら忘れてしまった記憶をお金を払ってまで取り戻そうとなんか思わないだろう。
しかし、僕は記憶を取り戻さなくてはいけない理由がある。
後悔を、したいから。
僕は大切なものを失った。それなのに。
後悔をすることができなかった。
だから、僕は一年前の記憶を買って、その全てを見て、後悔したい。
ずっとずっと後悔できなかったその記憶に、後悔したい。
「君は一年前の記憶を買いたいんだったね」
僕は頷く。
「後悔は、しないかい?」
後悔するという行為を、後悔しないか。
言外にそう言われた。
けれど、それは僕にとってもう覚悟が出来ていたことだ。
僕は僕の全てを後悔したい。
何も思わず。誰も想わず。どこにも行けず。
そんな人形のような人生の、たったひとつの後悔ですら、出来ずにいた。
そんな自分をまるごと悔やみたい。
僕は頷く。
「そう、か。ならいい。私が言うべきことはもう無いようだし。そろそろ君の記憶をその身に戻してあげよう」
ここではなんだからと、僕たちは喫茶店を出てとある場所を目指す。
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